自己免疫性肝炎

 

わが国では肝炎ウイルス感染が慢性肝炎の病因として最も頻度が高く,自己免疫性肝炎(AIH)の頻度は少ない.しかし,B型肝炎ワクチンの開発,輸血用血液の厳重なスクリーニング体制の確立,さらにはインターフェロンによる治療などにより,肝炎ウイルスによる慢性肝炎は今後減少することが期待されている.一方, AIHは,診断法の進歩によりわが国において診断数は増加傾向を示しているとされている.しかし,臨床的に診断される慢性肝疾患に占める割合はほぼ一定であり,原発性胆汁性肝硬変の約半数とされ,厚生省研究班の病床数200以上の病院における検討では診断数は年間約1,400症例数程度と推定されている.将来,慢性肝疾患の病因として肝炎ウイルスの関与が減少し,疾病構造が変化するに伴い, AIHはより重要な位置を占めると考えられる.事実,ウイルス肝炎の頻度が少ない欧米ではAiHが慢性肝炎の最も頻度が高い病因の一つである.また, AIHにおける肝細胞障害機構の解明は慢性肝疾患における持続的免疫学的肝細胞破壊の機序を明らかにする上でも重要である.

 

 多くの検討にも関わらず, AIHの病因は現在なお不明である.診断にあたってはわが国の診断指針にも記載があるように抗核抗体の陽性所見が重視されるため,本邦ではほとんどの症例は抗核抗体が陽性である.しかし,抗核抗体の疾患特異性は低く, AIHにおける病因的意義も明らかではない.他の自己免疫疾患同様にAIHでの自己免疫応答を惹起する標的抗原は不明である.AIHは比較的臓器特異的な病態を示すことから,肝細胞上に存在する自己抗原が推定され,肝細胞膜抗原,アシアロ等蛋白受容体などが候補とされている。 しかし,いずれも, AIHの病因に関わる対応抗原としては確立されていないのが現状である.分子免疫学の進歩により抗原提示には抗原提示細胞内の代謝過程が重要であることが示されている。最終的にはHLA分子の中に含まれる数個以上のペプチドが抗原決定基として作動することを考慮すれば,従来試みられてきた対応抗原検索の戦略は見直されるべきであろう.

 

 AIHはその定義にも明確に記載されているように既知の肝障害の原因を除外することにより診断される.すなわち,肝炎ウイルス感染が明らかな症例はAIHの診断からは明確に除外されることとなる.興味あることに,C型肝炎の感染率が高いわが国においては,C型肝炎ウイルスの感染が明碓であり,かつAIHと診断可能な症例が存在する。 B型肝炎ウイルス発見の際にはAIHとB型慢性肝炎の鑑別は容易であり、両者は明らかに独立した疾患であることが示されている.わが国における全国集計の解析においてもこの事実は確認された。 C型肝炎ウイルス感染とAiHの合併機序は現在不明といわざるを得ないが,少なくとも以下に示す可能性が考えられる.①C型肝炎ウイルス感染がAIH様の自己免疫反応を惹起する,②C型肝炎ウイルス感染が偶然にAIIIを発症する個体に起こる,③いずれかが他方の発症を増強する,④C型肝炎ウイルス感染ではAIHと紛らわしい臨床所見を呈す,などである.現状ではどの因子が本病態の主体をなすかは不明である.本槁では以上のような背景の下でのAIHの現状と問題点について概説する.