肝発癌の特徴と現在の戦略

 

 肝細胞癌(肝癌)が他の癌腫と同じ仁多段階発癌multistep carcinogenesisの過程を経て発生してくることは言うまでもない.さらに,肝癌のもう一つの大きな特徴として多中心性発癌multicentric carcinogenesisをきたす点がある.後者は,肝臓全体が一つのフィールドとして肝炎ウイルス感染やアルコールといった発癌刺激にさらされ,その結果複数のかつそれぞれが独立した,いわば「癌の芽」とも呼ぶべき細胞クローンを持つに至るという概念(field cancerization)によって理解されているl).

 

 さて,肝癌の大部分はB型あるいはC型肝炎ウイルスが持続感染した慢性肝炎・肝硬変に発生する.したがって,肝癌全休を視野に入れた診療の戦略を考えた場合,ワクチンなどを用いた肝炎ウイルス感染そのものの予防や,インターフェロンなどによるキャリア肝からのウイルスの排除が最も重要である.一方,顕在化した肝癌には外科切除,経皮的エタノール注入,化学療法,放射線照射など各種の治療が選択できる.

 

対肝癌戦略としてのClonal Deletionの位置づけ

 

 肝の多段階発癌は,たとえば肝炎ウイルス感染による最初の遺伝子変異mutationの発生から,臨床的な顕性癌の完成まで,およそ20~25年かかると見なされる.したがって,日常診療の対象としている慢性肝炎・肝硬変患者の肝臓には,すでにいくつかの遺伝子変異が積み重なった細胞クローンが,おそらく複数存在していることを想定しなければならない.

 

 ところが,肝炎ウイルスの感染予防・感染肝からの排除や顕性癌の治療対策は,肝発癌過程の左端と右端をそれぞれカバーするに過ぎない.両者の中間に存在する変異細胞クローンを除去deleteすることができれば,慢性肝炎・肝硬変からの肝痛発生を抑止できる.これこそ慢性肝炎・肝硬変患者の実地診療上最も重要な目標であり,さらに肝癌診療の軽減により医療経済上も極めて大きな効果が期待できる.しかし,この分野を目標とした戦略一変異クローンの除去Clonal Deletion―は,従来全く空白のままであった.