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 潜在性肝性脳症の診断法

 1。呼気中NH3濃度の測定

 

 生体アンモニアの大部分はイオン状アンモニア(NH4+) として存在する。しかし、ごく一部はガス状アンモニア(nh3)として存在し(NH + NH3十H气反応はアルカローシスで右方に傾く)、細胞膜(血液脳関門を含む)を通過して細胞内に移行しアンモニアの毒作用が発揮される。これまで生体資料中のNH3濃度を分別定量した報告はなく、筆者らは血中NH3濃度を反映すると考えられる呼気中NH3濃度の定量法を開発した。

 

 血中アンモニア濃度と呼気中NH3濃度とは相関し、血中アンモニア濃度が90μg/d I以上の肝硬変例では5 ppm (0。35μg/d/)以上を示すことが多い。しかし、血中アンモニア濃度が100~150μg/d Iでありながら、著増する潜在性脳症例(記号追跡試験120秒以上)のみられることが注目される。

 

 2。定量的神経機能検査

 

 神経心理学的テストは中枢神経系疾患だけでなく、呼吸器、疾患の脳病変の程度とその局在を診断するために広く用いられている。単一検査の感度はどれも100%でないので、どのような病患に対してはどのような方法の組み合せが望ましいかについて検討されているものの一定の見解には至っていない。

 

 一つの検査法でなくバッテリーといわれる多くの方法を同時に用いることにより、認知、精神運動、注意、記憶、反応時間などより多面的な変化をとらえて脳機能の全体像を明らかにし、異常の出現率を最大限にする工夫が必要となる。得られた検査結果を評価するには、年齢、性、教育歴をマッチさせた正常値と対比しなければならず、また短期間に検査を繰り返すことによる学習効果も考慮に入れなければならない。これまで筆者らは潜在性脳症の診断に有効な定量的神経機能検査法として、記号追跡試験、音と光に対する反応時間、WAIS-Rの符号間題と積木間題の5項目を用いてきた。 Tarterら2)は、記号追跡試験とWAIS一Rの2検査の他に、 Grooved pegboard test、 finger tapping test、 tactual performance test を加えた6項目を採用し、少なくとも3項目に異常がみられたら潜在性脳症と判定する方式を採用している。

 

 これら数種類の検査法をコンピュータ化した神経心理学的検査法を間発し、現在多施設での検討が進行中である。これを用いればどこででも同じ検査が簡単に実施でき、国際的に共通する潜在性脳症の基準の設定ができるものと期待される。

 

 3。大脳誘発試験

 

 この20年間、視覚誘発電位(VEP)、脳幹聴覚反応(BAEP)、体感覚誘発電位(SEP)カミ外因的検査として、また内因的検査として聴覚、視覚による事象関連電位(P300)が誘発電位として検討されてきた。潜在性脳症の診断にこの種の誘発電位を用いるには、①再現性がよく、簡単にできる、②従来の定量的神経機能検査や血中アンモニア濃度より感度がよい、③学習効果がない、などが必要とされる。

 

 誘発電位が潜在性脳症の診断に有用であるか否かについては、報告によって大きく異なる。その理由として、①脳症グレードの分類とその診断基準が施設によって異なる、②潜在性脳症の背景となる肝硬変の原因とくにアルコールがどの程度含まれているか、③視覚誘発電位の評価の相違はその記録方法の違い、あるいは通常法より異常頻度が高くなりやすい後半の部分(N3)を用いる報告もあり、④潜在性脳症の定義が一定でない、などによるものと考えられる。

 

 これまでの検討では脳幹聴覚反応、体感覚誘発試験や視覚誘発試験については一定の見解に達しておらず、今後さらに方法論を含めた検討が必要とされている。今後最も有望視されるのは、認知機能を@現するP300であり(聴覚刺激法より視覚刺激法が優れている。その異常は臨床的に安定な肝硬変例の78%に認められ、肝障害の程度と相関する。したがって、 P300と記号追跡試験(Bテスト)の組み合せが潜在性脳症の診断法として用いられる可能性がある。

 

 4。 MRI

 

 MRI-T、強調(水平)断面像で、淡蒼球黒質を中心とする大脳基底核領域や内包に高信号(左右対称性)が観察される8)。門脈一大循環系短絡路と密接な関係があるのは確かで、臨床的脳症の既往歴のない症例でも観察されることから、潜在性脳症の診断にとっても重要な指標となる。治療によって肝性脳症が著しく改善し、その状態が持続することにより基底核領域のTI高信号が減弱することがある。 また、肝移植例でも、脳MR画像でみられた高信号が移植後に消失したとの報告もあり10)その可逆性が注目される。

 

 T1高信号を吸光度として定量化し、水平断、矢状断でその局在を詳細に観察したところ、海馬、側頭葉などの大脳辺縁系や中脳、レンズ核などの錐体外路系に系統的に高信号が観察され、萎縮がよくみられる前頭葉にはそのような変化はみられない。興味深いのは、海馬の病変によって記憶障害が生じ、錐体外路症状として羽ばたき振戦が発現するなど脳の解剖学的変化と症状との間に相関性があることである。

 

 5)磁気共鳴スペクトル分析

 

 従来から磁気共鳴(MR)現象は物理学や化学の領域で用いられてきたものであり、特に化合物の構造の解析方法として確立されたものである。今日、磁場の均一性と高磁場が得られる高分解能NMR装置が開発一普及するとともに、生体組織の代謝動態をスペクトル分析により無侵襲に検討することが可能となってきた。現在、よく用いられる核種には31P-MRSと'H-MRSがある。前者では細胞内のATPなど高エネルギーリン化合物の濃度や細胞内pHを測定することができ、脳内エネルギー代謝の評価法として用いられている。また

後者は、細胞内の糖化合物、アミノ酸、リン脂質やクレアチンリン酸などの濃度の測定とその変動の検討に用いられている。

 

 iH-MRSでは、肝硬変の脳症例で大脳ミオーイノシトールとコリン(グリセロホスフォリルコリン)濃度が減少しており、逆にグルタミン(グルタミン酸も含むピーク)濃度が増加する。 これらの結果は定量的神経機能検査の成績ともよく相関することから、ミオーイノシトールやグルタミンの増減は潜在性脳症の診断法として用いられる。