C型慢性肝炎に対する小柴胡湯の効果

 

 1.肝機能に対する効果

 

 臨床的に慢性肝炎と診断された102例を対象に,小柴胡湯,桂枝茯苓丸の併用療法を行った.漢方方剤では二重盲検比較対象試験を施行するのが困難なので, 5.0 g/日と7.5g/日の2群に分けて両群の効果を比較した.

 

 投与後のAST, ALT値変化から判定した有効率をみると, 5.0 g群では24ヵ月後までに52~56%, 36ヵ月以降では70~75%であったが,7.5g群では12ヵ月後76.7‰36ヵ月以降には80%以上とより高率であり,特に12ヵ月後では5.0 g群に比べて有効率が有意に高かった.

 

 これら有効性に関与する背景因子につき多変量解析を行ったところ,投与量,年齢,投与前ALT値が重要因子であることが判明した.すなわち,50歳以下の症例では5.0 g群と7.5 g群間に有効性の差は認められなかったが,50歳以上の症例では5.0g群でALT値改善が不良であった.また投与量と投与前ALT値との関係をALT 130KU 前後で分けてみると, ALT高値の場合には,7.5 g群でより速やかな改善が認められ,薬効の量依存性が推定された.したがって,慢性肝炎に対する小柴胡湯,桂枝茯苓丸の併用療法では,特に50歳以上の高齢者およびALT高値の症例では. 7.5 g/日投与が望ましいと考えられた.なお,本治験では約75%の症例が非A非B型であった.これら症例のうちその後C型慢性肝炎と判明した症例につきB型慢性肝炎と比較したが,両群間で治療効果の差は見られなかった.

 

 小柴胡湯は単独でも実験肝障害に対しても有効であったことから,e抗原陽性のB型慢性肝炎80例を対象に,小柴胡湯を7-5 g/日を6ヵ月にわたって投与し,肝機能およびウイルス学的指標に対する効果を比較した.小柴胡湯による改善度を総合評価すると,肝機能に関しては40例(50%)で改善が認められた.ウイルス学的改善度はseroconversionを著明改善, seronegativeを改善,e抗原(cut off値)2分の1以上の低下をやや改善として判定したところ,著明改善8例(10%),改善15例(18.8%),やや改善H例(13.8%)であった.自然経過によるseroconversionは,年率ほぼ5%とされており,今回の検討におけるseroconversion率10%,さらにseronegativeも含めると, 28.8%という値は明らかに高率である.したがって,小柴胡湯は肝機能のみならずウイルス学的改善効果を有し,ウイルス自休ないしは生体の免疫機構に作用していると推定された.

 

 2.自覚症状に対する効果

 

 肝炎患者は全身倦怠,食欲不振,腹部膨満など多彩な症状を訴える.これらの症状は主に急性肝炎や進展した肝硬変患者で見られ,肝不全を反映したものと考えられる.しかし,慢性肝炎患者でも観察されることがあり,それらの症状は肝機能低下のみでは説明できない.これら慢性肝炎患者の自覚症状に対する漢方療法の有用性につき,e抗原陽性のB型慢性肝炎80例で分析した.

 

 何らかの自覚症状の見られた30例では,肝機能と自覚症状に対する効果に有意な相関が認められた.また血清ALT値の増悪と同時期に出現した症状のすべては改善した.したがって,肝障害に一致して出現する自覚症状は肝障害に起閃したものであり,小柴胡湯の肝障害に対する有効性が自覚症状の面からも推定された.しかし,肝障害と無関係と考えられた白覚症状を呈した6例においても治療による改善が認められた.そのうち3例は肝障害の改善とともに訴えが消失し,肝障害に対する不安が症状の原因になっていたものと推定される.一方,肝機能の改善が見られないにも係わらず自覚症状が改善した症例も3例あり,これらでは心的要因に起因する自覚症状に対して小柴胡湯が有効であったと推定された.

 

 3.肝細胞癌発生に対する効果

 

 小柴胡湯はC型慢性肝炎患者の血清トランスアミナーゼ活性を低下させ,肝炎活動性を抑制することから,肝細胞癌発生の危険を軽減する可能性がある.岡らは,C型慢性肝疾患患者で小柴胡湯を用いた漢方療法の効果をプロスペクティブに検討し,治療により肝細胞癌発生の頻度が有意に減少することを証明した13几 しかし,現在では小柴胡湯の保険適応が慢性肝炎に限定されており,より肝細胞癌発生の危険が高い肝硬変で用いることができないことが問題である.非代償性肝硬変症に対しては,小柴胡湯を含有する柴苓湯を投与することが保険適応上可能であり,その発癌予防効果が期待される.