病気の患者だけが助けられるのではなく、視力や聴力をなくしているような身体的に制約がある人々も救済されるだろう。ナノテクノロジーにより、網膜錐体と網膜ロットや内耳の不動毛のような、すでにナノスケールで動作している身体の部分を複製することができるようになり、物を見たり聴いたりできるようになる。これらの超高感度のナノ構造物をナノスケールの薄いセラミックや、生物学的に相性のよい材料の上に付着させ、それらを身体の中に埋めこむことで視力や聴力を得ることができる。

 

 この10年の終わり頃には、ヒトゲノムの解読、プロテオーム、その他の分子間相互作用などの情報が得られ、分子の相互作用の仕方についてのより深い理解やもっと強力なコンピュータを使って、モデル化し、設計し、試験をして新しい薬が創り出され、健康管理に革命が起こるだろう。この10年に医療情報が爆発的に増えるだけではなく、健康状態の情報をいまよりはるかに早い段階でもっとたくさん得ることができるので、患者はより知識が豊富になる。早期診断と予防が治療より先行するので、振り子は患者の好ましい方向に振れ続けることになる。

 

 このパラダイムシフトに最も大きな影響を及ぼすであろうナノテクノロジーがもたらす進歩は、病気の兆しを早期に発見するための、容易に、安価で、迅速なナノセンサーの普及をもたらすだろう。たとえば、家庭で簡単なプラスチックの棒を口の中に入れて、連鎖球菌、気管支炎、肺炎のテストを行うことができる。安価で精密な診断システムで、同じ情報が迅速に、しかも家にいながらにして密かに得られることになれば、だれが医者にいくだろうか。

センサー

 

 20世紀中はがんが誤診されたり見逃されたりした。それらは合せて、平均40%に達した。2009年までにDNAとタンパク質を基礎にしたシステムが家庭で利用できるようになるだろう。そのシステムは即座に何千もの病気のテストを行うことができ、正確さを保証するために冗長性が組みこまれている。痛みがなく腕の中に挿入できる小さなナノ探針を使って血液の試験をしたり、歯ブラシに埋めこまれたナノセンサーを使ったりして、自分で毎日病気のテストができる。早期発見が早い治療へつながり、わずかの費用ではるかによい結果が得られる。歯科医の業界では緊急治療から予防や個別処置へ何年もかけて移行したように、健康管理の仕方も変わるだろう。

 

 ナノセッサーは医療の分野だけに限定されるものではない。この10年以内に、価値のある物は何でもそれ自身でセンサーをもち、独自の識別コードが埋めこまれ、そしてプラスチックコンピュータと無線通信機能にサポートされるだろう。所有者はそれがどこにあるかを確認することができ、必要があればそれと通信できる。製品は瞬時にして探しだせるので紛失しにくくなる。センサーは製品を識別できるようにプログラム化され、そして正当な所有者のもとでしか動作しないようになるので、製品を泥棒が盜むのははるかに難しくなる。たとえば、カーステレオは購入時に取りつけられた車の中だけでしか作動しなくなるだろう。

 

 センサーのすべてがナノテクの成果であるわけではない。実際に、今日のMEMSを基本とするセンサーは、すでに、エアーパッグからタイヤまで自動車の中に使われているものを含め、さまざまな用途で広く使用されており、すでに私たちをミニチュア化の軌道に載せつつある。センサーがもっと小さく、安価で、性能がよくなり、その他のいろいろな製品やシステムと相互に作用し合うことができるようになると、私たちの周囲の物が賢く動作するようになるので、日常生活は大幅に変わることになるだろう。(前章で論じた用途との相違は、センサーの使用法よりはむしろどれだけ使用されるか、その規模である。2009年までに、価格は非常に下がり、ユビキタス社会になるだろう。)