戦略的計画

 

 ナノテクノロジーはあなたのビジネスの将来を予測するプロセスにも影響を与えるだろう。研究間発費の割り振りを見直す必要に加え、”研究”にあてる投資額を長期的観点で見る必要が生じるだろう。一般に、会社幹部は短期の(2~5年での)結果を求める傾向にある。しかしナノテクノロジーの場合はそうはいかない。本当に今後10年またはそれ以匕の間は、技術の多くは、それによって高い収入を生みだすことは難しいかもしれない。このことが研究間発眥を短期に回収するという現在の方針をめちゃくちゃにしてしまう。しかし幹部はより長期的な視点をもち、かつ収益に対しては忍耐強いことが必要である。もちろん、投資を最小にとどめるか、まったく行わないで、技術や市場が現れるのを待つ、という選択も可能だ。しかし、前述のようにナノテクノロジーの世界では、迅速な変化や重要な現状打破の事態が毎日のように起こるため、これは危険な選択である。強力な市場のリーダーが、技術革新を察知しそれに賭ける小さな会社にその弱点をつかれやすやすと侵略されてしまうことはありえる。

 

 容易に弱点を現さない会社の例としてヒューレットーパッカード(HP)がある。HPは3年から5年間隔で新製品を発明、間発し、技術の新製品への実装を行い、成功を収めてきた。しかし1995年に、デービッド・パッカード(David Packard)は、白社ビジネスに重要な影響のある新技術、特にナノテクには、開発により長期間を要するものがあることに気づいた。そこでHPはその年に量子科学研究間発部を設立した。そこは、HPの製品にふさわしいと思われる応用の分野で基礎的な研究を行える特権をもっている。部門の名称はナノテクノロジーに焦点を合わせる意図で命名されたが、それは、量子科学が原子のレベルになるとはっきりしてくる力と相互作用の物理的性質を扱うという理由による。HPは、物理学、化学、その他の科学分野のリーダーたちを雇い、彼らに組織を指導させた。種々の料学分野の人材の組みあわせに、長期的な特権と投資を結合させることによってHPは今日のナノテクノロジー分野のリーダーとしての位置を占めるに至っている。ほかにもAT&TやTIBMが、この長期ビジョンをもち参入を意図している。これらの会社は長期的な戦略的思考の例であるだけでなく、基礎的研究への投資、大学との協力関係の樹立などの好例でもあり、社員に技術的な多様性を身につけるよう導いている。 戦略的計画への最も重要な影響の一つには、遠い将来の可能性としてのナノテクノロジーを扱うために、新しい市場、製品あるいは研究投資の妥当性を評価する尺度を修正しなければならない、ということがある。今口多くの場含、製品に費やされた投資額(開発または改良)は3年程度で回収されることが期待されており、これが、開発投資が進展したか、または成功したかを測る基準となっている。

 

 ナノテクノロジーはまだ幼児期であるために、開発投資の回収時点に達するまでに、たいていの場合もっと長く、おそらく8~12年かかるだろう。したがって、3年で投資が回収できることをナノテクの成功基準とするのは適切でない。その代わりに、測定基準として、技術的な画期的な間発、ブレークスルーとなるような飛躍的進歩、パートナー協定、競争相手の動向などを含めるべきである。そうすることで間発および投資が成功したか否かを、収入からだけでなく、長期間をカバーすべく設定された重要な開発の進行段階によって測定することができる。幹部は、ナノテク関連の長期の開発、調査あるいは提携が、これらの新しい評価尺度を使用しないと失敗に見える、ということをよく認識しなければならない。

 

 長期投資と短期回収目標のジレンマに対する一つの解決策は、開発に対する考え方をビジネスから分離させることである。これにより目標を測定基準と明確に一線を画し、両者の緊張を緩めることができる。実際に、今日多くのナノテクノロジーのアイディアや技術が別会社として切り離されて行われている。その方が従来の会社にとって、ウォールストリート(米国株式市場)に対応しやすく、また間発的新興企業にとっては、特にナノテクノロジーのような長期開発分野に対しては研究、開発がしや寸いからである。パーリントンーファブリックス社からのナノテックス社、ライス大学からのカーボンナノチューブ社、および3Mからのアベカ社(AVEKA)は、スピンオフのよい例である。この環境の中で、彼らはベンチャー資本導入の道を間き、またしばしば親会社や親組織からある程度の資金提供や将来の見込みビジネスに対する保証を得ている。

 

 どんな解決策が選ばれようと、ナノテクノロジーはその研究・開発投資の点から、従来の伝統的な戦略計画プロセスに修正を迫るだろう。

『ナノテクビジネス指南』小林俊一監訳の著書より