先天性代謝異常症:新生児マススクリーニングの対象疾患


 代謝とは、生命を維持するために体内に必要なものをとりいれ、体内で不要になったものを体外にすてることである。この過程は複雑で、いまだ不明な点が多い。

 生命の維持に必要な物質にはアミノ酸、糖質、脂質、核酸、微量金属などがあり、それぞれの物質について、①胃腸での消化・吸収、②吸収後の血管・リンパ管内の運搬、③各種臓器の細胞内への取り込み、④細胞内での運搬(細胞内小器官などへの運搬)、⑤細胞内での利用(エネルギー産生、生体の構成成分の合成など)、⑥細胞内で不要になったものの処理(細胞内での処理と、血管・リンパ管の中を特定臓器まで運搬された後の処理)、⑦体外への排泄(尿からの排泄と、胆汁などの消化液を介しての糞便からの排泄)の過程がある。これらの代謝の過程をコントロールしている酵素や(吸収・運搬に関係する)蛋白質は遺伝子により合成されるが、この遺伝子の異常による疾患が先天代謝異常症である。現在までに数百のものが知られているが、有効な治療法がないものが多い。

 遺伝子の異常により起こる物質代謝障害。酵素IIが異常であると酵素反応が停止し、物質Bが大量に蓄積し、物質Cが形成されなくなる。その結果、先天代謝異常症では、蓄積した物質Bの中毒症状や、物質Cの欠乏症状がでる。

 代表的な先天代謝異常症としては、アミノ酸代謝異常症にフェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、尿素サイクル異常症などがあり、糖質代謝異常症にガラクトース血症、糖原病など、脂質代謝異常症にはリポ蛋白異常症、脂肪酸β酸化異常症、リピドーシスなど、核酸代謝異常症にレッシュナイハン症候群など、銅代謝異常症にウィルソン病など、ムコ多糖体(蓄積)症にハーラー症候群、ハンター症候群などがある。

新生児マススクリーニングの対象疾患の場合

 先天代謝異常症の中で、フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、ガラクトース血症の4つが対象である。早期発見・早期治療が可能であるが、放置すると精神発達遅滞になるか、死亡する。マススクリーニングでこれらの疾患の疑いがあると判定された児は、精密検査医療機関をただちに受診させる。フェニルケトン尿症では血液中フェニルアラニン濃度、ホモシスチン尿症では血液中メチオニン濃度、メープルシロップ尿症では血液中ロイシンイソロイシン・バリン濃度、ガラクトース血症では血液中ガラクトース濃度が異常高値になる。治療は食事療法であるが、フェニルケトン尿症ではフェニルアラニン制限食、ホモシスチン尿症ではシスチン添加低メチオニン食、メープルシロップ尿症ではロイシンイソロイシン・バリン制限食、ガラクトース血症では乳糖除去食である。

上記以外の疾患の場合

 先天代謝異常症を疑う場合は、

 ①原因不明の重体の新生児や、
 ②けいれん、脳症、肝臓機能障害、精神発達遅滞、反復する嘔吐、異様な体臭、原因不明のアシドーシス、高アンモニア血症、低血糖などの症状をもった小児である。

 そして、極端な偏食や食事による症状の誘発・悪化がある場合、発達の退行現象(できていたことができなくなること)がある場合、両親が血族結婚の場合、血縁関係のあるものに類似の症状や原因不明の死亡がある場合にはその可能性が高くなる。

 診断方法には、以下のものがある。

 ①血液・尿・髄液などを利用して、体内に蓄積した物質や不足した物質を明らかにする。これには、乳酸・ピルビン酸・アンモニア・血糖の測定、アミノ酸分析、有機酸分析、尿中ムコ多糖体分析などがある。

 ②白血球・赤血球・皮膚・肝臓組織などを利用して、酵素や蛋白を測定する。

 ③白血球のDNAを解析する。酵素や蛋白を合成している組織のRNAを解析する。

 治療方法には以下のものがある。図1を参考にして考えると理解しやすい。

 ①物質Bが大量に蓄積しないように、物質Bの制限食。

 ②物質B力1大量に蓄積しないように、物質Bの排泄方法を考える。薬物療法、腹膜透析、血液透析血漿交換、交換輸血がある。

 ③不足した物質Cを補う。

 ④異常な酵素IIの活性を高める工夫としては、補酵素であるビタミン類を補う。

 ⑤正常な酵素IIを補充する。例えば、人工合成酵素IIの点滴、正常酵素IIが合成できる肝臓の移植などがある。

 ⑥いまだに確立されていないが、今後の課題として遺伝子治療がある。

○先天代謝異常症の種類は非常に多いが、ひとつひとつの疾患の頻度は低い。診断方法・治療方法が疾患ごとに異なるので、担当医と充分に相談して看護する。

先天代謝異常症の食事療法や薬物療法は一生続けなければならない。特に、制限食をつくることは難しいことが多く、退院後に自宅に戻ってから家族を悩ませる。医師・栄養士・保健婦と連携をして、自宅での食事療法がうまく続けられるように相談にのる。

この世のすべてのヒトには数力所の遺伝子異常があることを知らなければならない。筆者も読者も例外ではない。生きていくために重要な場所に遺伝子異常が起こると病気の症状が出るが、生きていくのに関係ない場所に遺伝子異常が起きても無症状である。多くのヒトでは生きていくのに関係ない場所に遺伝子異常が起きているのであるが、これは単に運が良いだけである。先天代謝異常症などの遺伝子異常症に偏見を持ってばならない。明日はわが身、わが子孫に起こるかも知れない。