日本はiPS細胞を生んだ国なのに、なぜ再生医療で遅れているのか

幹細胞研究は、異なった種類の細胞の研究でも、未分化性を維持するシステムの研究など、結びついている領域も多く、iPS細胞もその例外ではありません。iPS細胞を生み出した国として、また激しい経済状況の中で、選択と集中の原則からiPS細胞へと注力することは当然ではありますが、他の分野の予算が増えていないことは、大きな目で見ればiPS細胞研究への障害になってしまう可能性があります。

産業化や研究をリードするという方策について、ビジョンがぼやけてきているのではないか、という点もあります。国際的な競争力確保のために、他の工業生産品と同じく「iPS細胞の標準化」が重要である、という指摘がなされています。しかし、京都大学の教授らは、日本のiPS細胞研究には産業化を見通した戦略性が足りないと指摘しており、デ・ジュリ・スタンダード(規格・法律上の標準)のコンセンサス・スタンダード(国際的フォーラムや業界団体等の合意に基づいて設定される標準)、デファクト・スタンダード(事実上の標準)というフレーミングを明確にする必要性を説いています。

産業化などの方策について目を向けると、いちばんわかりやすいの企業の関与に関してでしょう。ES細胞、死亡胎児由来幹細胞の利用に関して、企業が主体となって行っている臨床試験です。日本において、企業が製品として臨床応用を目指す場合には、薬事法及び医療機器の臨床試験の実施の基準(Good Clinicak Practice;GCP)に則した治験を行い、製造販売承認を得なければなりません。

日本においてこの基準を満たした再生医療製品は、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)社の自家培養表皮「ジェイス」のみです。しかし海外では、表皮関係の製品はジェイスを含めて13種類にも及んでいるし、企業によるフェーズ3を実施中の再生医療関係の治験も十数例ありますが、そのうち日本で行われているものは一つもありません。唯一、日本企業ではセルシード社が仏・リオンにてヒト角膜再生の臨床試験を実施していますが、これは日本における治験が複雑で時間もかかることからの選択であったといいます。

欧米では、治験と非治験の区分はなく、すべての臨床試験は治験として行われます。一見、開発側の負担が大きいように見えますが、審査当局(アメリカならFDA、EUならば各国政府)が臨床試験の各段階で開発支援に向けた相談も行い、治験終了後は速やかな上市が可能になるなどのワンストップ的な利点もあります。日本においては医薬品医療機器総合機構(PMDA)が試験計画などの相談に応じることはできますが、臨床研究段階での相談制度は存在しておらず、再生医療のような分野に対しては従来型の大手企業による産学共同システムや医学部のみで対応することは必ずしもできないでしょう。