読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

身体はダイエットや脂肪吸引に抵抗する

ものを食べるという行動は基本的に自己の意思に基づいた意識的な行動だという考え方は、私たちの文化に深く根付いています。私たち人間は、自分がすべてにおいて自由意志を持つという観念を、最初から持ち合わせているのです。それ故、体重は意志の力だけでコントロールできると考えたくなります。あのデブはどうして食べる量を減らして運動をしないのだろう? 意志が弱いだけじゃないのか。

そんなことはありません。人間に、動的平衡に基づいた食欲コントロール回路が備わっている以上、体重を大幅に減らしてそれを維持するというのは極めて困難なことなのです。体重が落ちると脂肪が減り、レプチン・レベルが落ちます。すると生化学的な連鎖反応が起こり、代謝率を抑えて無意識の食欲を強める信号が発信されます。失われる体重が大きければ大きいほど食欲は強くなり、エネルギー消費は抑えられます。毎年莫大な売り上げを挙げているダイエット産業はそのことを知らないとしていますが、悲しいことに、これは避けがたい真実です。

軽快な音楽に乗せたおなじみのダイエット映像があります。太った女性がランニングマシンで走っています。画面が切り替わるとその女性がサラダを食べています。次に少しスリムになった女性がステップマシンに乗っています。そして明らかに細くなった女性が道を走っていて、最後に痩せて自信を回復した女性がセロリスティックを満足げに齧っています。とても勇気づけられる映像です。

しかし、意識的に食事に気を付けたり運動をしたりすることで、ある程度の体重減を維持したり、一時的に急激に減量したりすることは可能だとは言え、大幅に減らした体重を長期的に維持するというのは、たいてい非常に難しいことです。脂肪吸引でさえ一時的な解決にしかなりません。ダイエットと同様、身体から脂肪を除去すると循環するレプチンのレベルが下がり、熱量消費が抑えられ、食欲が増大するからです。

人間が食欲を動的平衡でコントロールするシステムは他の哺乳類と変わりません。レプチンが減少した時に私たちが経験する無意識的な食欲と基本的に同じものを、マウスや犬も感じています。人間はこのような無意識の衝動を、同様よりもやや意識的にコントロールできるとはいえ、根本的には哺乳類は人類を含めて皆同じなのです。

人類と体重に関して理解すべき第一の要因は、進化の過程を通じて人類が無制限に食物を得られたことなどほとんどなかったという事実です。加えて、進化の歴史の大半の時期、私たちは狩猟採集社会に属し、日々の労働に大量の熱量を消費してきました。この文脈で見ると、人類が体重を最適レベルにセットする生物学的コントロールシステムをもっているというのは理に通っています。体重が減り過ぎても、食欲が落ちすぎても、次に飢餓が長引いたときに餓死する危険性が高くなります。逆に体重が多すぎると動きやすさに支障が出ます。

つまり、現代の人類が体重を大幅に落としてそれを維持しようとするとき、その努力は、数百万年積み重ねられてきた進化の選択圧に抗うことにほかならないのです。